100種類のブドウを作る理由
少年B:林さんは農家の何代目ですか?
林:4代目です。元々は色々な作物を作っていて、主力としてはコメ・モモ・ブドウでした。「百姓っていうのは100種類作るから百姓なんだ」と言われていて、たくさんの作物をちょっとずつ作っていましたね。
少年B:ということは100種類の品目から100種類のブドウになったんですね。
林:そうなります。(笑)
少年B:なぜ、100種類のブドウを作るようになったのですか?
林:育種目的が一番です。就農当初に両親のすすめもあって、ブドウの栽培と育種をしている花澤ぶどう研究所に勉強しに行ったのですが、「育種をやると貧乏になる。でも育種は意義のある作業だからぜひやってほしい」と言われたのが心に強く残って。育種をする人が大切であるにもかかわらず、貧乏になる農業構造を疑問に思ったんです。その理由がどこにあるかを知りたくて育種を始めました。
少年B:なるほど。
林:なので、品種を作るだけでなく、品種をどのように運用するかもセットで業界に提案していかないと結局続かないんですよね。品種の登録や登録の運用など、生産者だけ、もしくは育成者だけに利益が傾かないようにいい仕組みができないかと考えています。
少年B:育種の出口戦略ですね。

新品種を世に出す判断基準
少年B:新しい品種を世に出すときの判断基準を教えてください。
林:世の中に必要とされる特徴を持っているかどうかです。目標とする品種を念頭には置くんですが、目標とは何なのかということになるんです。昔だったら巨峰、今だったらシャインマスカットだと思うんですが、世の中のトレンドや環境の変化で変わってきます。なので、色々な品種を色々な形で持っておくことが重要で育種家の仕事だと思っています。今まで出してきた品種もそのタイミングで世の中に必要とされたからです。
少年B:世に出していないけど、いつか必要とされると思って保存している品種もあるんですか?
林:あります。例えば、マスカットジパングは僕の代表品種なんですが、なぜあれが世に出せたかというと「種なし皮ごと」という特徴が世の中に広く知れ渡って、それでないと買わないと変わっていってる経過の時期だったんです。その中でそういった特徴のブドウができないかという意識の中で、たまたま僕の元に生まれたのがマスカットジパングでした。
マスカットジパングの誕生秘話
少年B:マスカットジパングの誕生秘話について教えてください。
林:マスカットジパングはロザリオビアンコにアリサを交配してできた品種です。当時20グラムを超えるブドウはあまりなかったのですが、アリサは作り方によっては40~50グラムになるという特徴をもっていたんです。ただ作りにくさはあったので、それをより良いものにしていきたいと思ったのがきっかけです。
初年度はジベレリンを使わずに自然にならして評価しようと思ったんですが、いくつか交配した中で一つ種が入っていなかったブドウがあったんです。「間違えてジベレリンをつけてしまった」と思いました。4グラムくらいであまり見どころもないけど種がなかったので、翌年ジベレリン処理をして栽培してみたら40グラムくらいのブドウに化けたんです。そこでジベレリンをつけていない状態でも種が入っていなかったことが分かって、色々調べていきました。マスカットジパングは自分を育ててくれた子どもでありパートナーであり親みたいな品種です。
少年B:マスカットジパングによって林さんも育てられたということですね。

林ぶどう研究所のマスカットジパング
育種とは何なのか
少年B:林さんにとって育種を一言で表すと何ですか?
林:「多様性の維持」ですね。時代や環境の変化で必要とされる要素が常に変わり続けていると思うんです。その中で例えば暑さに耐性があるけど寒さに弱い品種を皆が作ってしまうと、暑くない気候に変わったときに皆ダメになってしまうんです。そういうときに代替案を提案できる存在として育種家は必要だと思います。
少年B:ちなみに民間で育種をするのは実際どうですか?
林:例えば研究所だと目標を立てて、その目標の中で動くことになりますよね。それももちろん間違いではないし、大切なんですが、民間であれば色々あがってくる要望に対して柔軟に対応できたり能動的に提案できたりほしいものにアレンジできたりする強みがあると思います。
少年B:多様性を維持するために、多様な品種を生むために今も100種類のブドウを育てているということですね。自分もブドウを愛する者として、ブドウの一番の楽しさって多様性だと思っていて、品種によって色も香りも食感も全部違うところが面白いなと思っています。シャインマスカットはおいしいんですけど、全部シャインマスカットになってしまったら寂しさを感じるので、林さんのような方に頑張ってほしいという気持ちがあります。
林:ありがとうございます。
少年B:最後に林さんの展望について聞かせてください。
林:物流や品種の幅も含めて生産者は日本の枠の中に収まりがちだと思うんです。日本と海外をどうつなげていくか、何が有効で今の時代に合っているか、新しい品種と合わせて提案していきたいです。育種はただ種をまいて良いものを選ぶだけでなくて、「品種によって生産者がちゃんと収入を得られて消費者が喜べる社会を作る」そのために品種を作って育てていくことだと思っています。
少年B:本当に壮大ですね!林さんが思い描く未来が来るように願っています。本日はありがとうございました!


















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