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失われた売り場の“バイヤー気質”を呼び覚ます。地場野菜コーナーを輝かせる「見える化」の威力【ベンチャーが拓く!日本の農の未来 #2】

失われた売り場の“バイヤー気質”を呼び覚ます。地場野菜コーナーを輝かせる「見える化」の威力【ベンチャーが拓く!日本の農の未来 #2】

スーパーマーケットに地場野菜コーナーがあることは、今や当たり前の光景となった。ただ、売り場の数が増えた一方で、あまり代わり映えしない売り場やだんだんと生産者が離れていってしまう売り場も生まれてきている。そうした中、成長する地場野菜コーナーを陰で支える黒子企業があるという。「地場野菜調達支援サービス es-Marché」を展開するイーサポートリンク株式会社を訪ねた。

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地場野菜コーナーを見える化したシステム

政治家がどうしても世論調査を意識してしまうように、あるいは、スマートウォッチが睡眠スコアを通知してくれれば改善しようと思うように、「見える化」は大きな威力を秘めている。
「見える化」は農業分野においても重要であることは論を待たないが、地産地消で重要なファクターを占めているスーパーの地場野菜コーナーは、長らく「見える化」の難しい場所だった。
そこに登場したのが「es-Marché」(エスマルシェ)だ。

「以前、埼玉県のホウレンソウ生産者の多くが東京の大田市場に出荷し、そこから埼玉県内のスーパーがそのホウレンソウを仕入れて埼玉県内に再輸送して店に並べているという話を聞きました。スーパー業界では大量調達・大量販売が商戦の前提になっているからです。でも、本来は新鮮さが重要なはずだし、生産者にとっても売り場を選べることは嬉しいはず。地場野菜のコーナーの活性化には、大きな可能性があると当社は考えています」青果物流通に特化したITベンダーであるイーサポートリンクの代表取締役社長の相原徹(あいはら・とおる)さんは「es-Marché」開発の原点についてこう語る。

相原さん藤元さん

イーサポートリンクの相原さん(左)と同社執行役員営業推進本部長の藤元康一朗(ふじもと・こういちろう)さん

「es-Marchéは、関東を中心に、北海道から沖縄まで、8社586店舗 で活用されています。チェーンによっては地場野菜の売上比率が10%を超えています」(相原さん)

es-Marchéを導入することで、店舗や生産者は、どの品目がいつどのくらい売れているかをリアルタイムで把握できるようになる。ただ、生産者にPOSデータが届くシステムは農産物直売所には存在するが、新たに開発する必要はあったのか。
その点は、執行役員営業推進本部長の藤元さんが次のように説明してくれた。

「スーパーマーケットチェーンにはPOSレジと連動した基幹システムが入っています。この基幹システムは、通常、地場野菜のように細かいコード体系に対応していません。これまでは『その他野菜』や『地場野菜』といった分類で売るしかなく、キュウリがいくつでナスがいくつといった品目ごとの販売点数は把握できませんでしたが、それも致し方ないことだったのです」

ここで具体的に説明してくれたのだが、あるスーパーチェーンでは、2000名の地元生産者が出荷している。つまり、取引先が2000あるということになる。スーパー基幹システムは、少額の取引先が多くあり、しかも各々の品目も数多くあるということを想定していない。

「生産者が2000名いるということは、生産者ごとにコードを割り振るだけで4桁必要です。さらに品目が100以上あるとすれば3桁、合わせて7桁は必要になってきます。各チェーンの既存のコード体系はあまりそういう状況を想定していないことも多くて。そのようなたくさんの生産者と品目を対応させていくのが、青果流通のシステムを扱ってきた当社ならではの仕事です。また、2000の新しい取引先があるということは、それだけの請求・支払業務が発生してバックオフィスも大変になるわけですが、それも効率化するシステムになっています」(藤元さん)

こうしたコードの運用は、時代によって変化すると、相原さんは言葉を続ける。「以前はサツマイモは1コードでよかった。でも、現在は「紅あずま」と「紅はるか」というように複数の品種を区別したいというニーズがあります。あるスーパーではミニトマトのなかで「アイコ」は区別したいという声もありました。」

エスマルシェ図

es-Marchéの概念図

es-MarchéがPOSシステムと連動することで、ようやくどんな地場野菜がどのように売れているのかがリアルタイムで把握できるようになった。

「スーパーの本部では、地場野菜がどのように売れているかを把握できないので、店舗からの市場経由の発注量が急に少なくなったりすると、何が起きた?ということになる。実際には地場野菜がその分売れていたりするわけです。地場野菜の存在感が増してきている今、地場野菜と市場から仕入れた野菜の両方を考えて販売戦略を練らなくてはいけませんが、地場野菜の売上品目が見える化できないと考えようがなかったわけです」(藤元さん)

es-MarchéとPOSレジとが連動することによって、生産者は、いつ何がどのくらい売れたかが分かるようになる。さらに、完売すればその時点ですぐに通知も届く。そうすると、その日のうちに追加で納入に行くということもでき、機会ロスが少なくて済む。
しかし、es-Marchéを導入した店舗で起きたことは、機会ロスの減少にとどまらなかった。

プロとプロのやり取りが売り場を伸ばす

「何がどのくらい売れているか」というデータを、売り場担当者と生産者がそろって把握することにより、次にどのくらい持ってくるかといった話がどんどん起きてくると、
相原さんは語る。

「地場野菜コーナーに出荷する生産者にとって他の生産者との棲み分けは難しい問題です。ご近所の付き合いもありますから。その点、現場担当者が『昨日持ってきてもらったイチゴ、売れ行きがすごく良いのでもっと増やしてください』と依頼したり、あるいは、ある生産者は大袋で持ってくるようにして、他の生産者には袋を小さくしてもらうといったお願いをするなどがあればなおのこと売りやすいですし、ひいては生産者に選ばれる売り場になります」

es-Marchéには、LINEのようなチャット機能もあると、藤元さんは説明する。

「生産者は生産のプロ。販売現場は販売のプロ。両者がどのくらいの密度でコミュニケーションを取っているかによって地場野菜コーナーの業績はまったく変わります」

相原さんも「売り場の担当者は、生産者と直接やり取りすることはあまりありません。本部が送ってくる市場経由の野菜を売るのが基本的な仕事ですから。でも、生産者と直にやり取りすることで、今までになかったやりがいを感じることができます。自分が関わったものを売ることは楽しいですから。担当者のモチベーションが上がって、売り場全体が活性化してくる効果もあるのではないかと思います」と続けた。

売り場写真

es-Marché を導入した売り場の一例(ヤオコー川越的場店)

生産者がデータを確認したりチャット機能を使ったりするためには、生産者自身がITを理解することが前提になるが、高齢化が進む農業界で可能なのだろうか?

「その点は心配していましたが、最初は『よく分からないな』と言っていた生産者が今では一番売上を頻繁にチェックしていたりといった事例もあります。だんだん楽しくなってくるんですね、売れた量や金額がリアルタイムで見えるので」(相原さん)

売れ行きが品目ごとや時間ごとに見える化されることで、売り場も生産者もモチベーションが上がって売り場が活性化するのだ。
このシステムの今後の展望や課題について、相原さんは次のように話してくれた。
「システムは料理に例えるなら、優れた包丁に過ぎません。料理人によって使いこなせるかは変わってきます。es-Marchéが売り場の活性化につながるかどうかは、スーパーマーケットチェーンの企業風土に少なからず左右されます。
そこが課題ではありますが、まずは地場野菜コーナーの数字が見えるようになるということを通じて、だんだんと、売り場担当者が楽しさを感じてくれて、その変化がじわじわと企業風土にも広がってくれればうれしいですね」

現状ではチェーンごとにコード体系が異なるため、異なるバーコードシールを用意しなければならないが、いずれはチェーン間のコード体系を統一して、共通のバーコードシールにしたい、と展望を語る。「そうすることで、生産者は好きなときに好きな売り場に持って行けるようになる。生産者にとって売り先の選択肢がより増えることは、農業の活性化のために重要だと思います」(相原さん)

《取材後記》分業制の裏で失われた、小売業の「面白み」を取り戻す

地産地消流通やスーパーの販売戦略において重要になっている地元野菜コーナーには、2種類あることが分かった。「見えている売り場」と「見えていない売り場」である。

「見えていない売り場」では、地元野菜コーナーはどうしても単なる棚貸しになってしまう。正確な売れ行きが分からず、機会ロスが大きい。
一方で、「見えている売り場」ではポジティブなことがいくつも起きてくるが、その一つは生産者とスーパーの現場担当者のコミュニケーションの活性化である。

本来の小売業の醍醐味は、自らが仕入れたものを自らが売ることにあると筆者は思う。だが一般的に、スーパーでの販売業務は、本部が指定した商品を売るというシンプルすぎるものになっていて面白みに欠ける(一般論として、農協による共同直売所も同様)。

筆者はes-Marchéをいち早く導入し、地元野菜の販売に積極的な「ヤオコー」の専務取締役・上池昌伸(かみいけ・まさのぶ)さんにお会いしたことがある。上池さんによれば、若者が減っている昨今でも、同社の新卒採用には多くの応募者があるという。その理由はさまざまあるが、ヤオコーは多くの同業他社とは異なり、本部主導ではなく個店経営を基本とし、現場に仕入れ権限があることで小売りの醍醐味を感じられることも要因のひとつだという。
相原社長が言うように、「システムは包丁に過ぎない」なかで、そうした企業文化の土壌があるからこそ地元野菜コーナーを輝かせることができるのだ。

生産と消費の距離が離れていると指摘される現代社会は、スーパーの現場において売り場担当と仕入れ担当が異なる部門であるということが象徴している。
地元野菜コーナーの「見える化」は、現代の小売業界で失われていた、売り場の“バイヤー気質”を呼び覚ます。ひいては、販売という仕事が大いにやりがいのあるものとなり、地場野菜にとどまらない青果流通全体の活性化につながってくるのではないだろうか。

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