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年商1億円超ミカン農家 「高値で売らない」のに儲かる理由【岩佐と紐解く戦略農業#26】

岩佐大輝

ライター:

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は佐賀県唐津市で柑橘の生産・販売を手掛ける株式会社シトラスプラスの上野勉(うえの・つとむ)さんに話を聞く。祖父の代から続く柑橘農家の3代目として、ハウスレモンの導入や販路開拓を進めてきた上野さんが描く、持続可能な柑橘経営の戦略とは。

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【プロフィール】
■上野勉さん

株式会社シトラスプラス 代表取締役
佐賀県唐津市生まれ。祖父の代から続く柑橘農家の3代目であり、日本全国に広まった極早生ミカン「上野早生」の系譜を継ぐ。2018年よりハウスレモン栽培を導入し、通年出荷体制を確立。2019年に法人化し、高品質な柑橘の生産と自社販路の構築に取り組んでいる。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

29歳で法人設立 拡大より基盤づくりを重視

岩佐:まずは、就農までの経緯を教えてください。

上野:うちは祖父の代から続く柑橘農家で、私で3代目になります。高校卒業後に農研機構で学び、20歳で上野農園に就農しました。27歳で事業承継をして、29歳で現在のシトラスプラスを法人として設立しました。

岩佐:なるほど。お祖父様の代から柑橘農家だったんですか。

上野:祖父の前の代は木こりだったと聞いていて、祖父が木を切ってミカン栽培へと転換したのが柑橘経営のスタートです。「上野早生」という品種を祖父が手がけたことで、ある程度の認知はありましたが、だからといって経営が順風満帆だったわけではなく、私が就農した当時は借入金もあって、決して楽な状況ではありませんでした。

岩佐:そこからどのように立て直していったのでしょうか。

上野:少しずつ面積を拡大しながら、環境制御などの技術も取り入れて、徐々に経営を改善していきました。

岩佐:現在の規模感についても教えてください。

上野:農地は7ヘクタールで、実際に収穫できているのは約5ヘクタールです。売上は約1億2,000万円、利益率は5%ほど。計画上は1億4,000万円、利益率20%を見込んでいますが、生産の安定化がまだ課題です。

岩佐:現在の生産体制についてはいかがでしょうか。

上野:いま考えているのは、「ユニット」という考え方での経営です。具体的には、1カ月ごとに収穫できるように品種を分けて、1ヘクタールずつ合計12品種・12ヘクタールを構成しています。それに加えてレモンを2ヘクタール。合計14ヘクタールで、年間700トン規模の生産を1ユニットと捉えています。

岩佐:つまり、毎月出荷できる体制をつくっていると。

上野:そうです。柑橘はどうしても収穫期に労力が集中するので、それを分散させることが重要なんです。例えば、1ヘクタールあたり年間50トン収穫できるとすると、20日間で収穫・出荷する場合、1日あたり約2.5トンを処理する必要があります。この前提から逆算して、チームの人数や設備の規模を決めています。すべては「1日2.5トンをどう処理するか」という基準で設計しています。

岩佐:非常に定量的ですね。農地の拡大はどのように進めてきたのでしょうか。

上野:離農された方の農地やハウス、さらには木ごと引き継ぐ形で拡大してきました。柑橘は新しく植えてから収益化までに6〜7年、累積で黒字になるには10年以上かかります。なので、まずは既存の資産を活用して生産量を確保し、会社としての基盤をつくることを優先しました。

岩佐:この先の展開はどう考えていますか。

上野:これまでは個々の木の作り方、いわばミクロの最適化を中心にやってきましたが、これからは園地全体の設計や作業効率、機械化といったマクロの視点が重要だと考えています。そこで、新たに1ヘクタールを一枚で使える園地を整備しました。

岩佐:どのような特徴があるのでしょうか。

上野:4メートル間隔で列を取り、2メートル間隔で植栽することで、すべての作業をトラクターで完結できるように設計しています。これによって作業効率を大きく高め、生産コストのさらなる低減を狙っています。

岩佐:従来の柑橘経営とはかなり違うアプローチですね。

バナナではなくミカンを選んでもらうための戦略

岩佐:販路はどのように構築されているのでしょうか。

上野:9割以上はスーパー向けで、残りが一部の通販会社と輸出ですね。輸出は5%程度で、主に香港向けです。スーパーは特に九州エリアへ出荷しています。基本的には直接取引が多いですね。

岩佐:価格や数量はどのように決めているのですか。

上野:週間や月間でどれくらい出せるかをバイヤーの方とすり合わせた上で、1カ月分の納品計画をいただき、それに合わせて生産・出荷の計画を組む形です。価格についても、2〜3カ月前にはおおよその水準を決めています。

岩佐:かなり計画的ですね。

上野:今年はミカンが豊作で価格が大きく下がったんですが、私は2月までその状況を知らなかったんです。仲間の農家から連絡をもらって初めて知り、慌てて取引先のバイヤーに相談しました。ただ、そのときに「長期の関係だから気にしなくていい」と言っていただいて。売り場全体で調整できるし、来年はまた上がるという前提で見てくださっていたので、とてもありがたかったですね。

岩佐:信頼関係のある販路ですね。もともと法人化した当初から直販だったのでしょうか。

上野:いえ、直接販売を始めたのはここ3年ほどで、それまでは全量を共選(JAによる共同選別・共同販売)で出荷していました。

岩佐:そこから自社販売に切り替えた理由は何だったのでしょうか。

上野:大きな理由は、「日常的に食べてもらえる柑橘を届けたい」という思いです。果物はどうしてもお中元やお歳暮の時期に高く動き、それ以外の時期は売れにくい傾向があります。でも私たちは、食後や家族の団らんの時間に気軽に食べてもらえる存在にしたい。そのためには、価格帯も含めてサプライチェーン全体を見直す必要があると考え、自社販売へと舵を切りました。

岩佐:マーケットとの距離が一気に近くなりますね。実際に市場を見て、どのようなギャップを感じましたか。

上野:一番は価格感です。例えばハウスミカンは、九州のスーパーで1パック680円ほどで販売されていますが、実際には「1日1パック売れるかどうか」という商材なんです。

岩佐:かなりの高級品ですね。

上野:そうなんです。一方で産地ではコストが上がっているので、もっと高く売るべきだという議論もあります。ただ、現場の売れ方を見ると、仮に価格を上げればさらに売れなくなる可能性もある。消費者にはそれぞれのプライスラインがあるので、そこに合わせた生産を考えないと、ミドルやローマーケットは取れません。

岩佐:つまり、「売れる価格」を前提にした生産が必要だと。

上野:はい。私たちは「バナナではなくミカンを選んでもらうにはどうするか」という視点が重要です。そのためにも、価格帯を正しく理解することが欠かせません。

最高級を作るのではなく、外れを無くす

岩佐:消費の変化についてはどう見ていますか。

上野:消費額が減少している背景には、供給量のブレが大きく、売り場として扱いにくいという側面があると思います。また、消費者からは「当たり外れがある」という声も多く、それがリピートを妨げている可能性があります。ですので、安定供給と品質の均一化が重要になります。
現在は光センサーなどの導入も進めており、「外れを引かせない」仕組みづくりに取り組んでいます。2年後には自社の選果場を建設し、より精度の高い選別を行う計画です。

岩佐:非常に長期的な視点で経営されていますね。業界全体や消費者のことまで考えられているのが印象的です。 ちなみにこのシリーズは「戦略農業」がテーマなんですが、御社の戦略を教えていただけますか。

上野:重要なのは、価格の決定権を持つことや、生産原価を下げられる農場設計、そして理念に基づいた組織運営だと思っています。そうした勝ち筋を取りにいくことが戦略だと考えています。

岩佐:生産面での戦略についてはいかがですか。

上野:果樹農家の方々は、三つ星シェフのように感覚を研ぎ澄ませて栽培されています。それは非常に尊敬すべきことですが、それだけだと日常的に食べられる価格にはなりにくい。高級レストランだけでなく、牛丼屋やハンバーガーのような存在があってこそ、食の豊かさは広がると思うんです。だからこそ、属人化しない技術、誰でも再現できる仕組みづくりが必要になります。私たちはそれを「農地デザイン」と呼び、一本一本の木と圃場全体の設計の両面から取り組んでいます。

岩佐:ブランドを前面に出す考えはないのでしょうか。

上野:以前は高級ブランドを志向する考えもありましたが、今は違います。家族で団らんしながら「これおいしいね」と言ってもらえれば、それでいい。その日常の一部になることが価値だと思っています。もちろん、その裏側には相当な技術と努力が必要ですが、目指すのはあくまで「特別ではないおいしさ」です。

岩佐:今後、取り組みたいことはありますか?

上野:将来的には、生産者や研究者、行政、関連企業が横断的につながるような「日本柑橘協議会」のような組織をつくりたいと考えています。50年後、100年後の柑橘産業をどうするかを議論できる場ですね。国内だけを見て競い合うのではなく、世界を見据えて産業全体を成長させていく。その起点をつくりたいと思っています。

岩佐:なぜ連携が進まないのでしょうか。

上野:市場が限定的だと認識しているからだと思います。パイが広がる前提がないと、どうしても取り合いになる。ですが、世界を見れば需要はまだまだある。そこに目を向けられるかどうかが、大きな分かれ目になると思います。

まとめ

岩佐:シトラスプラスの戦略のポイントを3つ振り返りたいと思います。

シトラスプラスの農業戦略のポイント
ノンブランドの定番ミカンを量産 特別な日や贈答用に食べるのではなく、日常の食卓に並ぶことを目指し、安定供給と安定価格を徹底している
技術の平準化で品質を均一化 勘と経験で特別なものを作ろうとせず、誰でも同じ品質のものが作れるように平準化を心がけている
戦略的な販路開拓 約束した期日と供給量を守ることで販路からの信頼を得て、豊作不作に左右されない取引を実現している。

 

岩佐:以上、3つがシトラスプラスさんのポイントでした。ぜひ皆さん参考にしてみてください。

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