【プロフィール】
■中村美紗さん
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株式会社フルトリエ代表取締役 福岡県久留米市で100年以上続く果樹農家の4代目。キックボクシングのプロ選手を経て、2017年に就農。梨専業だった中村果樹園でブドウやイチゴの栽培を開始。観光農園、直売所、カフェを展開し、果樹栽培を軸に新たな農業経営に挑戦している。 |
■岩佐大輝さん
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株式会社GRA代表取締役CEO 1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。 |
梨専業から観光農園への転換
岩佐:早速ですが、観光農園にお邪魔しています!梨がすごく低い位置になっていますね。
中村:ジョイント栽培という方法で梨を作っています。V字のトレリスを使って、かなり低い位置に梨がなるようにしているんです。2歳ぐらいのお子さんでも自分で梨を採れる高さになっています。
スタッフにとっても作業性がいいんですよ。
岩佐:フルトリエさんはスタッフを雇用しているんですよね。
中村:だから、新しく入った人でも作業できるようにすることをすごく意識しています。例えば、経験のあるスタッフと1年目のスタッフをペアにして作業してもらう。後ろを振り返れば、すぐに見本があるような状態です。
岩佐:なるほど。栽培方法そのものが、雇用の仕組みにもつながっているんですね。この観光農園には、年間で、どれくらいのお客さんが来るんですか?
中村:昨年は4万人でした。
岩佐:すごい!もとは梨の専業農家だったんですよね。
中村:そうです。私が就農した当時は、100%梨でした。ただ、梨だけだと年間で収入が得られるのが1カ月半ぐらいしかない。それに、台風が来たら一発で終わってしまう可能性もある。そこで父と話して、「ブドウをやってみようか」となったんです。私自身、日本農業経営大学校で経営も叩き込まれたので、そういった観点でも観光や直売、カフェもやりたい、と考えるようになりました。

フルトリエのブドウ農園
観光農園の隠れた戦略
岩佐:観光農園にも戦略が詰まっているんですよね。
中村:まずアクセスしやすい場所を重視しました。本当は一番良い果樹が取れる畑だったんですが、そこを潰してロードサイドに観光農園を作りました。
あと、駐車場とトイレには最初からお金をかけました。
観光農園って普段あまり運転しない人が来るので、車を停めにくい駐車場だと、それだけで心理的なハードルになります。トイレも、汚かったら二度と行きたくないですよね。
岩佐:かなり思い切りましたね。
中村:ディズニーランドやUSJには行くけど、観光農園には行ったことがない。そういう人を呼びたいと思っていました。これから生き残っていくには、今まで来ていなかった人たちを呼ばないといけない。
岩佐:既存の観光農園と、果物の味だけで勝負しても仕方がない、と。
中村:そうです。巨峰の味だけで考えたら、老舗の観光農園には絶対に勝てない。
だから、そうじゃないところで勝負しよう、というのが始まりでした。
岩佐:子どもたちが遊べるスペースもありますよね。
中村:はい。人工芝にして絵本やおもちゃを置いています。奥にはエア滑り台などの遊具も置いています。子どもって5分もすると飽きちゃうんですよね。安全に遊べる場所を施設内に作っておけば、親御さんも子どもを横目に見ながらゆっくり果物狩りを楽しめる。
三世代で来られる方も多いので、休憩できるように椅子の数も充実させています。

岩佐:イチゴの品種も8品種あるんですね。
中村:品種によって収穫の谷間があります。もし3品種しか作っていないと、1品種が谷間に入ったときに2品種しか残らない。でも8品種あれば、1つが谷間でもほかでカバーできる。お客さんの満足度を下げにくくするためですね。
岩佐:なるほど。予約はどんな風に取っているんですか?
中村:完全予約制で、事前決済。飛び込み客は基本的に受け付けていません。
岩佐:やることと、やらないことを、かなりきっちり分けていますね。
中村:やらないことを決めることも戦略だと思っています。

カフェは観光農園への入り口
岩佐:イチゴ狩り、梨狩り、ブドウ狩り、直売、カフェといろいろありますが、売り上げが大きいのはどこですか?
中村:観光農園と直売です。利益率は直売が最も良いです。ただ、カフェも雇用を継続するうえで重要なんです。
岩佐:カフェをやる意義は、売り上げだけではないんですね。
中村:私はカフェを「ビジネスの入り口」「フルトリエの顔」だと思っています。カフェがあることで、来るお客さんの層が他の観光農園とは全然違うんです。
岩佐:カフェを作ったのはいつですか?
中村:就農2年目の2018年です。実はカフェの設立は、就農5年目の目標だったんです。でも、就農した2017年に、訳あって約35トンの梨を出荷しなければいけなくなって。あと3カ月で収穫時期なのに、販路がない――。
それで、カフェの設立を大幅に前倒しし、2018年にオープンしました。
農業歴30年の人たちが作る梨なので、間違いなくいいものができる。だから、「売るのは自分の仕事だ!」と思って。その日のうちにInstagramを立ち上げて、地元メディアにも取材に来てもらおうとPRしました。
岩佐:結果は?
中村:オープン前に2社が取材してくれて、オープン当日には生中継も入って。翌日から、たくさんのお客さんが来てくれました。
岩佐:大成功ですね。
中村:かなり無理してオープンしたので、シーズンを振り返ると課題もありましたが、結果的に良かったと思います。当時、周りからは多分笑われていたと思いますけど。

フルトリエの“顔”となるカフェ
やらないことを決めるためのハードワーク
岩佐:これまでを振り返って、「やってよかった」と思うことはありますか?
中村:やらないことを決めたことですね。やりたいことは勢いでどんどん出来るんですが、やらないことを決めるのは結構ストレスがかかるんです。
例えば観光農園を始めた当初、「やらない」作業にしたいと思ったのが、電話対応と現金の取扱いでした。
最初の頃は、「現金で払いたい」といったお問い合わせも結構ありました。でも、すべてのお客さんに合わせようとすると、自分たちの仕事が回らなくなってしまう。だから、「自分たちのやり方に合ったお客さんに来てもらおう」という考え方に切り替えました。
岩佐:生産者って、栽培も加工も販売も飲食も、何でも自分たちでやろうとしがちですよね。
中村:でも、それが一番自分を苦しめることになりますし、お客さんにとって本当にメリットがあるのか?という視点も必要だと思います。
カフェ運営でも、ケーキの部分はプロのケーキ屋さんに作ってもらって、そこに自分たちのフルーツをふんだんに使えばいい。お客さんにとっても、そのほうがおいしいものを食べてもらえます。
岩佐:自分たちの強みを明確にして、そこに集中するわけですね。
中村:そうですね。ただ、最初から効率を目指すのも良くないと思っています。私も最初の3~5年は、ほとんど休みも取らず、自分ができることを最大限やりました。そうすると、「ここは自分がやらなくてもいい」「ここは外部に任せたほうが効率がいい」ということが、だんだん見えてくるんです。やっぱり、絶対的な労働時間を投入しないと見えてこないものもあると思います。
岩佐:まず自分でやってみるからこそ、任せるべき仕事が分かる、と。
中村:そうです。まずは自分ができるところまで突き詰めて、そのうえでできないことは「できない」と素直に言う。分からないことがあれば、いろんな人に連絡して助けてもらう。今でもよく人を頼っていますよ。

フルーツをふんだんに使ったメニューが好評だ
岩佐:人への投資もかなりされていますよね。
中村:売上規模は今、1億円ちょっとで、正社員が9人。売上に対して社員数は多いと思います。
まだ週休2日にはできていなくて、月6日休みなんですが、定休日を設けていないので、それぞれが希望に合わせて休めるようにしています。
岩佐:かなり柔軟!農業界では、なかなかない働き方ですね。
中村:私が最初に働いたのが大企業だったので、年間休日が120日以上あるのも当たり前でしたし、有給も取りたいと言えば取れた。
働く人は「農業界の中」で求人を見ているわけじゃなくて、ほかの産業と比べて見ています。だから、少しでも農業が気になる人に、「農業でも働いてみようかな」と選んでもらえるような条件は、なるべく出したいと思っています。
まとめ
| フルトリエの戦略ポイント | ||
| ① | やらないことを決める | 電話対応や飛び込み客への対応、加工品の製造など、自社でやる必要のないことは外部と連携。自分たちの強みに集中する。 |
| ② | 徹底したマーケティング思考 | 「今まで観光農園に来なかった人」をターゲットに、立地、駐車場、トイレ、キッズスペース、カフェなどを設計する。 |
| ③ | ハードワークから仕組み化へ | まず自分ができることを最大限やり、その経験をもとに、任せる仕事や外部に出す仕事を見極めていく。 |
岩佐:先に誰に来てもらいたいのかを決めて、そのために必要なものだけを残していく。その結果として、年間4万人が訪れる観光農園が出来上がったのだと感じました。


















