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カリスマ農家が語る「有機農業の壁とこの先の希望」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

カリスマ農家が語る「有機農業の壁とこの先の希望」

茨城県土浦市で有機農業を営む久松達央(ひさまつ・たつおう)さんは際立つ発信力ゆえに若い新規就農者から幅広く支持されており、「カリスマ農家」とも言うべき存在だ。高い栽培技術に加え、タブーを恐れず有機農業のあり方を論理的に説明する力も突出しており、影響を受けた若い農家も少なくない。だが久松さんは今、自分が築きあげてきたスタイルの限界を説く。有機農業の新しい形をつくってきた久松さんは、何に直面し、どんな未来を展望しているのだろうか。

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「状況は年々厳しくなってます」

「ちょっと一瞬、終礼に行きます。一緒にどうぞ」。インタビューを始めて1時間ほどたったときにそう促され、久松さんの自宅のリビングから、家のすぐ前にある集出荷場に移動した。久松さんと3人のスタッフが仕事の進捗(しんちょく)状況などについて簡潔なやり取りを交わし、終礼は数分でおしまい。時刻は午後4時をまわったばかり。その日の農園の仕事は文字通りこれで終了した。
久松さんによると、朝7時に仕事をスタートし、午後4時にはすべての作業を切り上げる。勤務時間は8時間。土日は休みで、ほかに有給休暇もある。残業する日がないこともないが、ごくわずかだ。
家族経営の場合、深夜まで袋詰めの作業をしていたり、休日返上で農作業に追われたりすることが珍しくない。法人化し、スタッフを雇うようになったとき、いかにそういう状況を改めるかは共通の課題。実際には解決できていない例もある中で、久松農園はどうやって労働環境を改善したのか。

午後4時。久松達央さんが終礼を始めた

久松農園で育てている野菜は約100品目。キュウリなどの細かい品種を別々にカウントしたわけではなく、それらを1つにまとめたうえでの品目数だ。これだけたくさんの野菜を旬を外さず育てるには、スタッフの栽培技術の習熟と、仕事を効率よく回す作業体系の構築が不可欠。久松農園はそれをずっと追求してきた。だが「ホワイトな職場」になったわけはそれだけではない。
ポイントは設備投資。久松農園がここ1~2年取り組んできたのが、出荷のオペレーションの強化だ。朝方の5時まで人手に頼らずインターネットで飲食店からの注文を受け付け、スタッフが集まると「それ行けー」という感じで収穫し、出荷作業に移る。「メチャクチャな長時間労働ならできるかもしれませんが、それでは残業なしで週休二日は無理」。それを可能にする仕組みを、システム会社に発注してつくり上げた。農業機械を含め、設備投資を続けることができる経営体力が受注の自動化を支えた。

ここで久松農園の全体像を示しておこう。社員は久松さんを含めて4人で、パートは5人。面積は6ヘクタールと、規模拡大が難しい有機農業としては大型の部類に入る。野菜の宅配セットを販売している約250人の個人顧客のほか、約60軒の飲食店も売り先になっている。筆者が久松さんと知り合った約10年前には1000万円に満たなかった売り上げは、今では4500万円に増えた。
理詰めでつくった栽培や販売の仕組みを通し、久松さんは有機農業がビジネスとして成り立ち、成長する可能性を証明してきた。そこに書籍や講演、SNSによる発信力が重なり、運動論的な考え方がなお前面に出ることが少なくない有機農業のイメージを一新してきた。では次のステップとして何を目指すのか。そのことを聞くと、久松さんから意外な答えが返ってきた。
「状況は年々厳しくなってます。ぼく自身としては、ここがピークでもいいと思ってます」

震災後に組織をつくり、経営を大きくした

農薬や化学肥料、合成洗剤による汚染を、1970年代に厳しく糾弾した有吉佐和子の著作「複合汚染」に触発されて農業を始めた人が多いように、有機農業には社会が抱える問題を解決しようとする運動論の側面があった。

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