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産地にコメの保管と流通の拠点を設置。銀座の業務用米販売業者のねらいは

kumano_takafumi

ライター:

産地にコメの保管と流通の拠点を設置。銀座の業務用米販売業者のねらいは

高級飲食店向けに高品質の業務用米を安定的に供給するため、産地とのつながりを強めるコメ販売業者がいる。同社は産地の集荷業者に保管まで依頼し、タイムリーに出荷してもらうという体制を構築している。一方、産地の集荷業者や生産者にとっても出荷先が安定しているのは大きなメリットだ。販売業者・集荷業者・生産者の良好な結びつきを取材した。

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山形県のコメ産地の勉強会に参加する銀座のコメ販売業者

2022年4月9日、山形県最上郡真室川(まむろがわ)町の中央公民館に地元のコメ生産者が集まり「米づくり勉強会」が開かれた。これは例年この時期に開催されているのだが、コロナ禍で昨年は中止、2年ぶりの開催となった。今年の勉強会では、気象情報やワーコム農法(※)による栽培方法について学んだ。

この参加者の中に、東京都銀座に本社を置く業務用米販売業者、銀座食糧販売株式会社常務の河内孝喜(かわち・たかよし)さんがいた。銀座食糧販売はこの地と深いつながりがあり、河内さんは毎回この勉強会に参加している。

実は、この勉強会を開催しているのは、同町で戦前からコメの集荷や肥料等資材の販売を行い、現在は自社でコメの生産も行う真室川米穀株式会社。同社は銀座食糧販売と年間契約でコメの集荷をしており、さらに自社の低温倉庫に保管して銀座食糧販売のオーダーに従って出荷するという、通年安定供給体制を構築している。
つまり、銀座食糧販売とこの町の生産者は、真室川米穀を通じて深いつながりがあるというわけだ。

※ ブナの森の腐葉土の土着菌など自然の菌を活用した堆肥(たいひ)発酵促進剤「ワーコム」を使った農法。真室川町の有限会社ワーコム農業研究所が開発。

米どころ山形の町に、他県産のコメも保管する倉庫

真室川米穀の現社長、伊藤順敏(いとう・よりとし)さん(75歳)は3代目。取材当日は、現場を切り盛りする長男の英亜(ひでつぐ)さん(46歳)に車で自社の倉庫に案内された。

低温倉庫

真室川米穀の低温倉庫。壁には前身の伊藤米穀店の名が残る

この倉庫は築40年とのことだが、夏場も温度管理ができるように断熱材で覆われている。保管されているコメは30キロの紙袋が主体で、縦横交互に組み合うようにして天井まで高く積まれている。英亜さんによるとこの積み方が最も安定しており、東日本大震災の時も荷崩れしなかったという。保管されているコメは、地元山形のブランド米である「はえぬき」や「つや姫」。また、真室川発祥の農法である「ワーコム農法」で栽培された特別栽培米「ワーコム米」もある。

ワーコム米

積み上げられたワーコム米

さらにこれ以外に「新潟コシヒカリ」や「岩手ひとめぼれ」といった他県の産地銘柄米も保管されている。ここでは地元産に限らず、銀座食糧販売が扱うコメであれば保管を請け負っているのだ。
このように、真室川米穀が銀座食糧販売のために保管しているコメはブランド米が多い。

あきたこまち

倉庫内に保管された山形県産以外のコメ

業務用米が「価格の安いコメ」とは限らない

銀座食糧販売の本社は、高級な飲食店も多い東京都中央区銀座8丁目にあり、飲食店のニーズに合わせた業務用のコメの提供を行っている。
真室川米穀と銀座食糧販売の取引が始まったのは平成に入ってすぐの頃。真室川米穀社長の伊藤順敏さんが自産地のコメを銀座食糧販売に直接売り込みに来たのが始まりで、以来30年にわたり取引が続いている。取引が始まったころは山形県の主力品種「はえぬき」「どまんなか」が主体であったが、山形県のブランド米に育った「つや姫」もいち早く取引するようになった。今では、山形県の依頼で毎年秋に銀座食糧販売が銀座の飲食業組合の協力のもと「つや姫」の販促キャンペーンを行うまでになった。
「つや姫」と言えば、スーパーなどで高級ブランド米として販売されているケースが目に付くが、銀座食糧販売は寿司店やとんかつ専門店、焼き肉店など全て外食店に販売している。外食店などが使用するいわゆる業務用米は価格の安いコメと思われがちだが、必ずしもそうではない。

河内さんによると、とんかつ専門店や焼き肉店では「高級でおいしいコメを求めている」とのことで、相手先の要望に応えて銘柄だけではなく、コメの特徴に合わせたブレンド米も提供するようにしている。このため河内さんはつや姫以外に特色あるコメを探しており、今一番関心を持っているのが「山形95号」。このコメはまだ品種名が付いていないが、良食味で多収と言う特色があり、このコメをブレンド米の原料米にすべく真室川米穀に栽培委託している。真室川米穀はコメの集荷販売だけでなく、自社でコメ作りも行っており、こうした要望にも応えることができる。

山形95号

銀座食糧販売が期待する新品種「山形95号」

産地に保管と物流の拠点を持つメリット

銀座食糧販売が求めるコメを真室川米穀が集荷するだけではなく、新しい品種も栽培する取引形態は産地と消費地の取引の理想的な姿だが、両社の取り組みはそれだけではない。先に記したように、真室川米穀は銀座食糧販売が使用する他県産米も保管しているのである。

銀座食糧販売の本社事務所は銀座という都心部にあり、まさかそんなところにコメの倉庫を建てるわけにはいかない。銀座食糧販売は精米技術も売りにしており、その精米工場も本社から2キロほど離れた入船にあるが、コメを保管するスペースは限られている。そのため真室川米穀に依頼して同社の倉庫に保管してもらうという形をとっている。もちろんコメ代金以外に保管料を上乗せして支払う。こうした関係が出来上がるにはお互いの信頼関係が最も重要なことは言うまでもない。
その信頼関係は、2015年に真室川米穀が自社でコメを生産するための別会社を設立した際に、銀座食糧販売が出資者になったことにも表れている。東京の米穀販売業者が産地の農業生産法人に出資するという例は珍しいが、安定的にコメを仕入れるためにはそこまでやる必要があるというのが銀座食糧販売の考えだ。そうすることによって自らが使用したい新品種の栽培依頼もしやすくなる。

銀座食糧販売もコロナ禍では大変な苦労をした。同社は100%業務用米販売の米穀販売業者で、緊急事態宣言下では月の販売量が8割も落ち込んだ時期もあった。このため2021年産米の仕入れは抑えざるを得なかったが、昨年末あたりからようやく回復の兆しが見えるようになった。

このような経緯もあり、2022年産の事前契約を真室川米穀と協議する時期にあたり、河内さんも真室川米穀のコメ作り勉強会に例年通り参加した。勉強会での産地側の取り組みをじかに学ぶメリットもあるが、それ以上に自社で使用するコメを生産してくれる生産者一人一人と会って話を聞くことができることに大きなメリットを感じている。実際、河内さんはそれぞれの生産者のことを実によく知っている。地元の集荷業者との長年の取引関係が生産者との結び付きをも強めている好例と言えるだろう。

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