ネギ農家のグループ化で売り上げ拡大
こと京都はネギの生産と販売で国内有数の農業法人だ。まずは社長の山田敏之(やまだ・としゆき)さんの言葉から紹介しよう。
「厳しい状況は一過性のものだとわかっていた。いろいろ経験して慣れているので、やるべきことを粛々とやればいいと思った」
何が起きたかは数字を見れば明らかだ。2020年12月期に利益が大きく減り、21年12月期から2年連続で赤字になった。ところが23年12月に黒字に転じると、翌年は利益が3倍超に拡大、25年12月期も黒字が確実だ。

こと京都の生産したネギ
ここでこと京都の歩みを簡単に振り返っておこう。
山田さんの実家は野菜農家。アパレル会社にいったん勤めた後、32歳で実家を継ぎ、品目をネギに絞って生産と販売の開拓に乗り出した。2000年にカットネギの製造をスタートさせ、事業の拡大が軌道に乗った。
この間、栽培面で手を打ったことは2つある。1つは自社農場を複数の場所に設け、猛暑など栽培のリスクを減らしたこと。もう1つは栽培基準を明確にしてネギ農家をグループ化し、取扱量を増やしたことだ。
2020年12月期は拡大路線に一段と弾みがつく年になるはずだった。なぜそこで足踏みしたのか。答えから先に言っておこう。新型コロナウイルスの流行が、こと京都の前に立ちはだかったのだ。

山田敏之さん(左)がグループ化を本格的に始めたころ(2010年撮影)
新工場の立ち上げを新型コロナが直撃
ネギの原体やカットネギなど、こと京都の商品の販売エリアは日本全国に広がっている。それを支えているのが、ネギを集荷し、カットするための工場だ。以前は創業の地である京都市内に拠点が限られていた。
拡大し続ける商圏をカバーしようと、静岡県藤枝市で新工場が竣工したのが2020年3月。そこを新型コロナが襲った。
新工場が稼働したことで、人件費や電気代などのコストが増えた。その分は売り上げの増加でカバーできるはずだった。ちょうどそのタイミングで、重要な売り先である飲食店が営業縮小に追い込まれた。

こと京都のカットネギ
飲食店向けの売り上げは、全体の約5割を占めていた。コロナの影響でそれが半分に減った。スーパー向けの販売が好調で全体の売り上げは伸ばせたが、コスト増を補うことができなかった。これが業績が落ち込んだ理由だ。
コロナの影響が潮が引くように小さくなるのに伴い、業績も当然のように浮上した。もちろんその背景には、カットネギをパックや総菜の素材などさまざまな形でスーパーに売り込んだ営業努力がある。
こと京都はこれまでいくつもの試練を乗り越えてきた。台風被害でネギが倒れ、工場の稼働をストップせざるを得なくなったこともある。
「あのときは『黒いため息』をついていた」。山田さんはそんな表現を使って、厳しかった時期のことを振り返る。そうした経験の積み重ねが、多少の困難では経営が揺らがないという自信に結びついている。

台風で倒れたネギ
事業存続のために規模拡大
最後に山田さんが事業の拡大を目指す理由に触れておこう。
業績が一時低迷したのは、新工場の竣工による経費増とコロナが重なったからだ。こと京都は現在、社員とパートを合わせて約200人を雇用している。この分の人件費は会社にとって固定費になっている。
家族経営の場合、売り上げが減れば手取りを「我慢する」という手がある。社員を雇用していればそうはいかず、経営にじかにのしかかる。それでもなぜ法人経営で人を雇い、事業を大きくしようとするのか。
そのわけについて、山田さんは「組織的な経営は年齢に合った働き方ができる」と話す。若い頃は畑に出てがむしゃらになって働いた。現在、栽培は若い社員に任せているので、自分はマネジメントに専念できる。

目標はずっと高みにある
ここは重要なポイントだ。栽培を人に任せようとすると、最初は何らかの失敗が大抵起きる。だがそこを耐えて、スタッフの技術の向上を見守ることができなければ、現場を離れて経営のかじ取りに注力するのは難しい。
加えて山田さんが強調するのが、「自分が病気やケガをして、せっかく育てた事業が消滅するような事態は避けたい」という点だ。それを防ぐため、誰か1人に仕事が集中しないような組織をつくり上げてきた。
2026年には北海道にも農場を開き、天候リスクのコントロールに一段と力を入れる。目標にどこまで近づいたかを聞くと、山田さんは「ようやく4~5合目」と答えた。はるか高い頂をいまも見据えているのだ。



















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