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ヒノキの間伐材で、憧れの原木ナメコ!

ヒノキの間伐材で、憧れの原木ナメコ!

集落の集まりで話題となるのが「山をこれからどうするか問題」。先代たちが植えてくれたヒノキやスギだが、このご時世では材木としてはお金にならず、「わかっちゃいるけど、どうしようもない」状態。わが家のクリ林も周囲のヒノキが大きくなって日陰となり、年々収穫量が減ってきている。今回は、そんな厄介物のヒノキでナメコがつくれるという夢のある話を聞いて、愛知県春日井市へ!

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針葉樹がホダ木になる!

やり方を教えてくださった高橋勇夫(たかはし・いさお)さん(右)と福島正美(ふくしま・まさみ)さん

お邪魔したのは2月中旬。「これが去年の12月中旬に植菌したナメコね。まだ仮伏せ(※1)中です」と高橋勇夫さんがコモ(粗く織ったむしろ)をめくり上げると、落ち葉に埋もれたホダ木が顔を見せた。
一般的にシイタケなどのキノコの菌を打ち込む原木(菌をすでに植え込んだものが「ホダ木」)として使われるコナラやクヌギなどのゴツゴツした幹肌とは違う。これはヒノキ。切断面を爪でこすってみると、確かにヒノキ特有のいい香りが漂う。
「間伐したヒノキを使って、市民のみなさんにキノコづくりの体験をしてもらってるんです」
高橋さんたちが所属する「みどりのまちづくりグループ」は、春日井市の里山である県有林「みろくの森」の保全を目的にさまざまな活動をする市民ボランティアグループ。活動するなかで出たヒノキの間伐材を有効利用する一つの方法として、ナメコやヒラタケの栽培をするようになったそうだ。
だが、そもそもの話。ヒノキなどの針葉樹は菌が食い込みにくいからこそ建築材などの材木に使われるわけで、キノコづくりには向かないのでは?
「そこで県の林業普及員さんに相談して、うちではこんなふうにやってるんです」と高橋さん。その方法が、長さ20センチほどの短い原木2本でオガ菌(※2)を挟み込む「サンドイッチ方式」(短木栽培)。90センチ程度の原木に駒菌(※3)を打つ一般的な方法(駒菌法)と比べると、菌が回るのが早く、翌秋から収穫できるのがメリット。また、木口(原木の断面)に発生しやすいことから、ナメコやヒラタケに向く方法だそうだ。

※1 仮伏せ:キノコ菌をホダ木に活着させるための作業。乾燥を防ぐためにコモなどをかける。
※2 オガ菌:オガクズに菌糸を繁殖させたもの。
※3 駒菌:小さな木片(駒)に菌糸を繁殖させたもの。

2月中旬。11月に仮伏せしたヒノキにはすでに菌糸がはびこっていた!「こんなふうになれば最高だね」と高橋さん

「ヒノキでナメコ」のやり方

「それじゃあ、実際にやってみましょうか」。高橋さんの合図で作業が始まる。
「うちで植菌体験をしてもらう場合は、午前中にヒノキを伐採して、午後に菌を打ち込むんです」と高橋さんが説明する。
広葉樹を原木にする場合は1〜1.5カ月乾燥させたほうがうまくいくが、ヒノキは乾燥するのが早いため、切り倒してからなるべく早めに菌を打ち込むのがコツだそうだ。

1.原木を輪切りにする

まずは、原木を15センチほどになるよう輪切りにする(今回使用した原木の直径は20cmほど)。
下準備として、ノコギリで輪切りの際の目印を15センチ間隔で入れ、さらに寝かせた原木に対して水平の方向にも1本だけ線を引く。この線は、後ほど菌をサンドイッチする際に、原木の向きを合わせる目印になる。

原木の向きを合わせるための目印として、1本線を入れる

原木は15センチ程度の輪切りにする

短く切られた原木は、1玉、2玉と数える。ちなみに切る際はブルーシートを敷くといい。この時に出たオガクズを、タネ菌の材料にするからだ。

2.オガ菌をカサ増しする

ナメコの菌は、オガ菌1リットルで800円ほど。このままだとほんの少しのホダ木にしかならないので、輪切りの際に出たオガクズと米ヌカ、水を混ぜてカサ増しする。
オガクズは輪切りの際に出たもので十分足りるが、樹皮はなるべく取り除いておく。
今回、使用した材料は以下のとおり。

原木15セット(2玉で1セット)分の材料
・ナメコのオガ菌 1リットル
・オガクズ 4リットル
・米ヌカ(できるだけ新しいもの) 2リットル
・水道水 2リットル

趣味でそば打ちもする高橋さん、さすがに手際がよい

水以外の材料をさっくりと混ぜ合わせてから少しずつ水を加えていく。手についた菌が混ざるので必ずビニール手袋をする。
切断した原木の状態によってオガクズに含まれる水分が変わるため、水の量は様子を見ながら微調整。水分量の目安は「握りしめると水がにじむくらい」だそうだ。

いい水加減のオガ菌だと、いい感じのおにぎりができる

3.菌を塗ってサンドイッチ

オガ菌を原木に塗り込む

できたオガ菌は厚さ1センチ程度になるように原木の上に広げる。この時、周囲を少しだけ厚く盛るのがコツ。サンドイッチした際に密着しやすい。

チェーンソーでつけた線を目安にしてサンドイッチする

サンドイッチしたら、つなぎ目を梱包用のラップで巻いて固定する。
あとは冒頭の写真のように、山の中に据えて、落ち葉とコモを被せたうえで、乾かないようにしっかりと散水し、仮伏せは完了。

植菌した原木。固定には以前はガムテープを使っていたが、剥がれやすいので梱包用ラップを使用

4.本伏せ、そして収穫

7月頃になって切り口に菌がまわったら、組み合わせた原木2玉をベリッと剥がし、1玉ずつ、菌糸がついている木口を上にして並べる(本伏せ)。原木同士のすき間には腐葉土を詰める。

本伏せした原木。7月には木口を菌糸が覆う

湿り気を保つようにコモをかけて養生し、11月初旬になったら黒い寒冷紗(かんれいしゃ)(遮光率50%)を被せる。

11月下旬には大きなナメコが生えてくる

原木ナメコのためなら間伐も頑張れる!

ナメコは2年目も続けて収穫できるが、原木が短いせいか、2年目の収穫量は3割ほどに減り、3年目にはゼロになるそうだ。だけど、ヒノキを間伐する際に少しずつ菌を打って入れ替えていけばいい。大変なわりにお金にならない間伐作業も、ナメコ栽培の一部だと考えればやる気になる。

それにしても厄介者でしかなかったヒノキから「天然ものと変わらない味」(高橋さん談)のナメコができるなんて素晴らしい!私もさっそく翌日、わが家のヒノキを1本伐採し、教わった方法で菌を植えてみた。原木ナメコだなんて、直売所のお客さんも喜ぶだろうし、私も食べたい。
まだ春になったばかりだというのに、秋の楽しみがひとつ増えた。

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