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新規就農者は地域で育てる! 若手果樹生産者たちが取り組む新規就農者支援と産地ブランド化。元エンジニア夫妻が農業に懸ける思いとは?

新規就農者は地域で育てる! 若手果樹生産者たちが取り組む新規就農者支援と産地ブランド化。元エンジニア夫妻が農業に懸ける思いとは?

日本の農業における最大の課題ともいえる「担い手育成」。大切に守ってきた土地や栽培技術を継承することは農家のみならず国内自給率や食の安全にも関わる大きな問題です。そんな現状を前に立ち上がったのが福島市飯坂町で果樹栽培を営む若手生産者たちです。フルーツの里として知られる同町の東湯野に移住・就農した元エンジニアの目に映る、同地区の秘めた可能性と課題解決に向けた取り組みをご紹介します。

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元エンジニアがふるさとに感じた農業の可能性

約2.7haの畑でモモ、ブドウ、リンゴを栽培する鈴木農園。2017年から「モモ」「ブドウ」「リンゴ」のJGAP認証を取得

約2.7haの畑でモモ、ブドウ、リンゴを栽培する鈴木農園。2017年から「モモ」「ブドウ」「リンゴ」のJGAP認証を取得

福島市北部に位置する飯坂町。国内有数の古湯・飯坂温泉を有するこの町は、稲作をはじめ果樹栽培が盛んな地域として知られています。そんな同町の東湯野(ひがしゆの)地区でモモ、リンゴ、ブドウを栽培する『鈴木農園』を家族で営む鈴木陽子(すずき・ようこ)さんは2016年、愛知県一宮市からご主人の実家がある福島県福島市に移住しました。

「いずれは実家に戻って農業をやりたいという夫の考えに同意していたものの、結婚直後に東日本大震災が発生しました。原発事故による放射能の影響が暮らしにどれだけ影響するのかも不透明だったため、移住には踏み切れずにいました」。

と、当時を振り返る陽子さんの前職はエンジニア。半導体の研究者として忙しい日々を送るなか、夫の満(みつる)さんと共に帰省するたびに感じたのは風評被害に負けない生産者たちの情熱と義父母が作る果物の変わらぬ美味しさでした。実家の農産物の放射能検査や行政による調査で安全性を示すデータに納得ができたこともあり、夫妻は移住を決意します。

「エンジニアとしての経験を生かすことができる仕事に就くことも考えました。でも、移住前は仕事の関係で夫と離れて暮らした時期もあり、農業なら一緒に働くことができると思うようになりました。とはいえ、ずっと研究職だったわたしは農業に関しては全くの素人。1年ごとに目標を立て、自分にできることから始めてみることにしました」。

着色のための「葉摘み」をしないことで、葉で作った栄養が収穫直前まで実に供給されるため、より美味しいリンゴに

着色のための「葉摘み」をしないことで、葉で作った栄養が収穫直前まで実に供給されるため、より美味しいリンゴに

1年目は手伝いを中心にSNSを使った情報発信、6次化商品の開発などに取り組んだ陽子さんは、ご主人と義父母が愛情込めて育てた果物の美味しさをもっと多くの人に知ってほしいと改めて考えるようになったと言葉を続けます。

「義父母が作るリンゴを食べたときの感動は今でも忘れることはできません。今まで食べていたリンゴはなんだったの?というほどの美味しさでした。こんなおいしい果物を作ることができる東湯野の農業は大きな可能性を秘めている、もっと多くの人にこの美味しさを知ってもらいたいと始めたのがマルシェへの出店です」。

毎週日曜日にJ R福島駅東口駅前広場で開催されるマルシェには陽子さんが店頭に立ち、鈴木農園自慢の果物を販売。「お客さんと直接触れ合うことができるマルシェにやりがいを感じています」と話す陽子さんの笑顔は、太陽の恵みを受けたリンゴのように輝いていました。

「KA-KA-SHI組」が目指す担い手育成と産地ブランド化

ブドウ畑の暗渠(あんきょ※1)作業を行う満さんと研修生の宮崎さん

ブドウ畑の暗渠(あんきょ※1)作業を行う満さんと研修生の宮崎さん

充実した日々を送る反面、陽子さんは東湯野が高齢化による担い手不足に直面していることを実感。ご主人の満さんは移住前からこの危機感を抱いており、「このままでは東湯野の農業が消滅してしまう」と一念発起。そこで結成されたのが2019年に東湯野の中堅若手生産者が中心となって立ち上げた東湯野ふるさと保全組合「KA-KA-SHI組」です。

「わたしなりに分析した結果、東湯野は限界集落まであと少しの状況にあることがわかりました。果樹の場合、隣接した耕作放棄地で病害虫が発生すると現役の畑にまで影響が及びます。地域の農業を守るためには担い手を育てる受け皿が必要だと気付きました」。

現在、8名で活動する「KA-KA-SHI組」では、新規就農希望者の雇用研修を中心に耕作放棄地の除草や保全、地域農業のブランド化に取り組んでいます。鈴木農園で研修に勤しむ非農家出身の宮崎遥(みやざき・はるか)さんは、満さんのもとで果樹栽培の技術や経営のノウハウを習得し、間もなく独立就農予定です。

「担い手不足は日本のどの地域でも抱える課題ですが、待っているだけでは何も変わりません。就農希望者のニーズに合わせた研修内容を組み立て、地域で人を育てることが大切だと思います」。

そう力強く話す陽子さんに垣間見えた研究者としての視点。自分で道を切り拓いてきた元エンジニア夫妻は、「KA-KA-SHI組」の中心メンバーとして、研修生が地域コミュニティーへスムーズに参加ができるようにサポートもしています。

「わたし自身が移住者ということもあり、この地で農業をやるには地域の方々との繋がりや支援、教えが欠かせないことを実感しています。ベテラン生産者の知恵や技術を得ながら東湯野の果物の美味しさを次世代につなげていきたいですね」。

東湯野産果物をPRするのぼり。地域農業のブランド化にも力を注いでいる

東湯野産果物をPRするのぼり。地域農業のブランド化にも力を注いでいる

福島市中心部から東湯野に向かう道には、「東湯野は くだもの おいしい」とデザインされたのぼりが至るところに設置されています。これも「KA-KA-SHI組」が取り組むPR活動のひとつです。同組合は首都圏でのPR活動や地域専用のギフトボックスの作成などを皮切りに、産地ブランド化にも力を注いでいく方針です。

男女で語る必要のない、農業の未来に期待

自身が栽培から収穫まで任せられたリンゴを見つめる陽子さん

自身が栽培から収穫まで任せられたリンゴを見つめる陽子さん

長きにわたり日本の農業の中心は男性であることは否めません。夫婦で営農する場合、女性はサポート的な立場にあることが一般的です。近年、農業を営む女性を中心としたネットワークが発足し、さまざまな活動が注目されていますが、農業の未来を考えたとき、男女で語られない世界であってほしいと陽子さんは思いを語ります。

「男性、女性に関係なく農作物を作る「人」で評価されるべき農業であってほしいと思います。企業の場合、役職が人を育てるように農業も仕事を任せることで人は育ちます。今は女性が一歩踏み出せる環境を整える準備段階。女性が農業の一線で活躍するのはマイノリティだからこそ、女性同士のネットワークを大いに活用し、未来の農業につなげていくことが大切だと思います」。

農業の世界へ踏み出したばかりの陽子さんは、現在、3本のリンゴの木を任せられ栽培管理から収穫まで全ての工程を1人で行うことで、生産者として育ち始めています。収穫を間近に控えたリンゴを愛おしそうに見つめる陽子さんに、就農希望者へのアドバイスを伺いました。

「農業に興味があるのなら、気負いせず研修に参加してみてはいかがでしょう。極端な話ですが自分に合わなかったらやめることもできるのも研修です。まずは一歩、踏み出してみませんか?」

研究者として、半導体技術の最先端を走ってきた陽子さん。東湯野の果物の可能性を信じ、新たな道を歩み始めたばかりですが、その先にはたわわに実った果実のように明るい未来が待っていることでしょう。
地域で担い手を育て、農業の未来の可能性を自分たちの手で切り拓く飯坂町東湯野。この地で育まれた果実のように、就農の夢を実らせてみませんか?

※1:暗渠(あんきょ):畑の水はけを良くするため、地下につくる水路のこと

■取材協力
鈴木農園
〒960-0221
福島県福島市飯坂町東湯野字畑中1-5
URL:https://www.suzuki-fruits.com

■問い合わせ
東湯野ふるさと保全組合「KA-KA-SHI組」
TEL:024-542-0874(鈴木農園)
kakashi.spt@gmail.com

福島県就農支援情報サイト「ふくのう」もご覧ください

福島県就農支援情報サイト「ふくのう」

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