公式SNS

マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 【第4話】想像より、キツい。でも面白い。元バンドマン・トマト農家が語る、農業のリアル【いま知っておきたい、これからの”食”の話】

タイアップ

【第4話】想像より、キツい。でも面白い。元バンドマン・トマト農家が語る、農業のリアル【いま知っておきたい、これからの”食”の話】

【第4話】想像より、キツい。でも面白い。元バンドマン・トマト農家が語る、農業のリアル【いま知っておきたい、これからの”食”の話】

毎日なにげなく食べているトマト。その一個を食卓に届けるために、作り手はどんな日々を過ごしているのでしょうか。元バンドマンという異色の経歴を持ち、経営にAIも使いこなす千葉県のトマト農家・田邉良太さん。「想像よりキツい」という農業の現実、そしてそれでも前を向く理由とは。食を支える“人”のリアルに迫ります。

twitter twitter twitter twitter
URLをコピー

【プロフィール】教えてくれた人

田邉良太さん
田邉農園代表
千葉県白子町でハウストマトを栽培する、農業歴13年の40歳。二児の父。音楽の道を志したのちに家業を継ぎ、ロックウール栽培やAI活用など先進的な取り組みを進める。JA長生施設野菜部会の青年部長を務める傍ら、地元を拠点に音楽とも関わり続け、他業種の仲間とも交流しながら事業を拡大している。

農家の一日は、地味で、重労働?

みなさん、はじめまして。千葉県白子町で大玉トマトを育てている田邉良太です。祖父の代から続くハウスを継いで就農13年目。両親と私の三人で頑張っています。

実は私、もともとはバンドマンでした。音楽で成功することを夢見て東京に出たものの、気づけばリハーサルスタジオの店長業務に追われる毎日。30歳を前に意を決して、家業を継がせてほしいと父に頼みました。

自分が継ぐからには、同じことを続けても意味がない。そう考えて、祖父が土、父が水で栽培していたトマトを、「ロックウール」栽培という新しい方式に切り替えました。近年はAIも経営判断に取り入れながら、栽培技術をアップデートしています。

正直に言うと、農業を心から面白いと思えるようになったのはここ1、2年のことです。今日は、その理由も含めて、農家の「リアル」をお話しします。

――農家というと畑仕事をイメージしますが、実際どんなことをしていますか。

メインはトマトの管理です。たとえば苗の水やり。ひとつひとつ土台の重さを量り、適度に乾かしては水を与えて、根を強く張らせる。数グラム単位の勝負です。

体力的に大変なのは、収穫が終わった後のトマトの木の後片付けかもしれません。伸びきった木をすべて切って運び出し、ハウスの中や細かい部品もひとつずつ洗って消毒し、また元に戻す。この地道な作業を怠ると、次に植えるトマトが病気になりやすくなってしまうんです。

――とくに忙しいのは収穫の時期ですか。

うちの場合は、ほぼ一年中トマトを収穫し続ける作り方なので、収穫は日課です。そこに片付けや植え付けが重なる7月から8月にかけてが、一年で一番忙しくなります。この時期は、妻に「機嫌が悪い」と言われるくらい余裕がなくなります(笑)。病気や害虫を防ぐために薬をまく作業も、基本は週に1回です。

そして、うちのハウスには、トマトの木が13000本あります。その一本一本に毎日目を配る。手を止められる日は、ほとんどありません。

一番怖いのは、“見えない敵”

農業の大変さは、労働だけではありません。田邉さんが「大嫌い」と言い切る、目に見えないリスクがあります。

――農業をしていて、一番怖いものは何ですか。

怖いものは、大きく二つです。ひとつは、台風。以前、ハウスの屋根を吹き飛ばされたことがあります。台風が来ると、できる対策は全部して、あとは祈るしかありません。

それ以上に厄介なのが、目に見えない敵です。例えばコナジラミという小さな虫。体長1ミリくらいで、葉の裏に群がって、汁を吸うんです。厄介なのは虫そのものより、そいつらが運んでくる「トマト黄化葉巻病」というウイルスで、感染した木は抜いて捨てるしかありません。それに「ピシウム」という病原菌。根を腐らせて木をしおれさせてしまいます。どちらも気づいたときには広がっている。だから、心の底から嫌いなんです。

トマト黄化葉巻病にかかったトマトの様子(参考)

――たくさんあるうちの一株くらいなら、と思ってしまいますが。

そこが、トマトの怖いところです。うちのトマトは、一本の木から、一年かけて約30房を収穫します。つまり、木を一本失うことは、これから穫れるはずだった、たくさんのトマトを丸ごと失うということ。しかもウイルスは、放っておくと隣の木へどんどんうつっていく。だから、感染した木は、実がついていても、すぐに抜かなければならないんです。

だから、手段を重ねて守り抜く

見えない敵は、ときに長い時間をかけた努力を、一瞬で奪います。田邉さんが「過去いちばん」と振り返る出来事が、つい最近ありました。

――実際に、大きな被害を受けたこともあるんですか。

正直に言って、一昨年はやらかしました。過去に経験したことがないほど、コナジラミが大発生してしまったんです。気候の変化も原因のひとつです。これまで秋頃に出やすかった病気が、暖冬の影響で11月頃までずれ込んで対応が後手に回ってしまったんです。

――被害は、どれくらいだったんですか。

収穫の途中だったのに、木を半分近く抜くことになりました。本当なら半年先まで収穫できるはずだったトマトが、まるごと消えてしまった。母には「木がなきゃトマトは実らないんだからね」と叱られました。木が抜かれてがらんとしたハウスは、本当に寂しかったですね。

――この虫にどう立ち向かうんですか。

まず、そもそも中に入れないこと。ハウスの窓に細かいネットを張り、入ってきた害虫は粘着シートで捕まえる。そのうえで薬剤を使いますが、同じ薬ばかりだと害虫が慣れてしまうので、性質の違う薬を10種類以上、週替わりで使います。うちは受粉をハチに手伝ってもらっているので、ハチに影響が出ない薬を選ぶ必要もあります。この複雑な組み合わせを作るのにAIも活用していますが、毎日ハウスに立って最終的にどうするかを決めるのは自分自身です。

――農薬をまけば倒せますか。

そこが誤解されがちなのですが、 農薬は敵を「倒す」ものというより、病気を「出させない」ための予防なんです。病気や虫が広がってからではもう遅い。発生する前に、先回りして手を打っておく。むやみに薬を増やすのではなく、必要なときに、必要な分だけ。それが一番効果的なんです。

それでも続けるのは、トマトから世界が広がるから

これだけ大変な思いをする農業を、田邉さんはなぜ続けるのでしょうか。その理由は、意外なほどシンプルで、そして楽しそうでした。

――そこまでの目にあっても、なぜ続けられるんですか。

一番は、子どもたちのためですね。自分の子どもに、胸を張って「おいしい」と言える安心なトマトを食べさせたい。単純ですが、これが最大の原動力です。あとは、ミニトマトの直売もやっていて、お客さんから「おいしかったよ」と直接言ってもらえると、本当にテンションが上がります。

スイーツのような甘さが特徴の「ぷちぷよ」。人気が高まりオンライン販売のほか、近隣のスーパーでの取り扱いも開始

最近は、パートさんの雇用も始めました。働きやすいように、子どもを連れてきてもOK、急用ができたらいつでも帰ってOK、というルールにしています。昔は子ども嫌いだった自分が、よその子を農園に入れるなんて、我ながらびっくりです。でも、そうやって人が集まって、みんなで働ける場所になっていくのが、今はうれしいんですよ。

――大変なのに、すごく楽しそうです。

そうなんですよ。農業を心から好きになったきっかけは、仲間です。それも、農業の外の仲間。うちで育てているハラペーニョという辛い唐辛子は、売り先に悩んでいたら、妻の知り合いのつながりで、加工品として売る話が進んでいきました。仲間と栽培用の装置を手作りしたり、仲間がDJを務めるラジオで、うちの取り組みを話させてもらったり。何かに挑戦すると、必ず助けてくれる人が現れて、また新しいつながりが生まれる。トマト一個から、こんなに世界が広がるなんて、就農した頃は想像もしませんでした。

――若い人とのつながりもありますか。

ありますね。今日も、大学生がボランティアで手伝いに来てくれて、いろんな話ができて楽しかった。彼らは建築を学んでいるから、将来、農業用ハウスの設計をしてくれないかなとか。若い人が農業に興味を持ってくれるのは、本当にうれしいんです。少しでも興味があるなら、一度、畑に来てみてほしいですね。

食を支えているのは、“人”だ

大変で、怖くて、それでも面白いと言う田邉さん。最後に、あらためて「食を支える」ということについて聞きました。

――田邉さんにとって、トマトを作るというのは、どんな仕事ですか。

家計を支える柱であり、生きがいでもあります。うちの大玉トマトは、JAを通して市場に出荷しています。安心して食べてもらえるものを、手に取りやすい価格で、たくさんの人に届ける。日本の食を支えているんだという自負を持っています。

――こんなに手をかけて、今の価格で本当に見合っているんですか。

そこなんです。就農してすぐ父に聞いたことがあって。「工場ならいくらで売れるかわかって物を作るけど、農家はいくらになるかわからないまま作る。これ、すげえ怖くない?」って。しかも、資材も燃料も値上がりしているのに、トマトの価格は何年も変わらない。このままでは農家も市場も共倒れになる。この現実を知ってもらい、作る人がちゃんと報われる形に、少しずつ変えていけたらと思っています。

田邉さん、ありがとうございました。田邉さんが「大嫌い」と語る病害虫を、もし放っておいたら私たちの食卓はどうなってしまうのでしょうか。次回は、作物を守る研究の最前線を訪ねます。(取材・文=マイナビ農業企画制作部)

前の話を読む
【第3話】豊作なのに、農家が損をする?知らなかった「野菜の値段」の仕組み【いま知っておきたい、これからの”食”の話】
【第3話】豊作なのに、農家が損をする?知らなかった「野菜の値段」の仕組み【いま知っておきたい、これからの”食”の話】
「レタスが高い!」と騒がれていたのに、いつの間にか安くなっていた。野菜の値段は、なぜこんなに変動するのでしょうか。そしてこの先、当たり前の値段で買い続けることができるのでしょうか。全国の生産者とスーパーをつなぐ農業総合…

特設サイトはこちら
食べることは生きること いま知っておきたい、これからの“食”の話
食べることは生きること いま知っておきたい、これからの“食”の話
スーパーに行けば当たり前に並ぶ食べ物。でも、その「当たり前」は多くの人の仕事や技術に支えられています。農業や食の仕組み、気候変動の影響など、食と農について記事を通して楽しく学べる特集です。

タイアップ

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE
  • Hatena
  • URLをコピー

関連記事

新着記事

タイアップ企画