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令和時代の街の価値は、直売所が決める!【直売所プロフェッショナル#25】

令和時代の街の価値は、直売所が決める!【直売所プロフェッショナル#25】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。街や地域という観点から見渡してみると、直売所がかなり特異な商売であることが見えてくる。その理由とは……?

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極めて特殊なお店、それが直売所だ!

いきなり農業と関係のないような話題ですが、これからは街と街の間の競争、都市間競争が激しさを増していくと言われています。日本の人口は減少していくので、街に魅力がないと、どんどん人口が流出していってしまいます。
ですので、街の魅力度アップ(それを「まちづくり」と本稿では定義します)が今後ますます重要になってくるのですが、その観点からすると、直売所は大きな使命を負っています。
なぜなら直売所は、以下のように他の商売にはない特徴を持っているからです。

1. 農業と市民の結節点であり、かつ、数百人の市民が訪れる

農業は街にとって重要な要素であり、近年の都市計画でもその存在が見直されてきています。そうしたときに、市民と農業とのインターフェース(結節点)がどこにあるだろうかと街を見渡せば、それは直売所しかありません。ほかにも、体験農園や学校での食育の時間など、市民と農業が交わる機会はありますが、客の絶対数がまるで違います。
また、それなりの規模の直売所であれば、納品している農家の数も多いです(体験農園で出会える農家はふつう1人だけです)。
市民も多く訪れ、農家も多く訪れる。そんな場所が他にあるでしょうか?

2. 商工業とつながることもできる

直売所は、農業の一部でありながら、商工業でもあります。
なので、地元の商工会・商工会議所に出入りすることができるなど、農家に比べれば農業セクター以外の人たちと関係性を築きやすいです。
筆者が経営する直売所では、たとえば地元のケーキ屋さんに地元の農家を紹介することもありますが、そうした動きができるのも、地元の商工業と地元の農業、その両方にネットワークがあるからです。

3. 地元に売り上げが還流する、ほぼ唯一の小売業である

街にはさまざまな小売業があります。しかし、売り上げの多くは地域外に流出してしまいます。その点、直売所は違います。地代家賃やスタッフの人件費だけでなく、商品仕入れの代金もその大半が地元に支払われます。もし売り上げの一部が観光客から得られるものであれば、その地域が「外貨」を獲得するためにも貢献していることになります。つまり、直売所は地域経済への波及効果が大きい業態です。このことをうまくPRすれば、多くの市民が応援してくれることでしょう。

このように、直売所は、「農業」「市民」「商工業」の三角形の真ん中にいる、そういう特殊な存在です。つまり、農業活性化という役割にとどまらず、まちづくりを考えた時にもたいへん重要でポテンシャルがあるのです。にもかかわらず、単に農産物を売るだけに終始している直売所も多いのが現状ではないでしょうか。

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まちづくりに参加するためのネックとは

現代のまちづくりでは、「農業」や「緑」、「郷土文化」といった要素が見直されています。
まちづくりを考える商工業者や行政からすれば、農業とはぜひともつながりたい、連携したい相手です。そのときに、直売所は仲介役になりえます。
しかし、農業の外側にいる人が直売所に協力をもちかけるのはハードルが高いかもしれません。地域から店長やスタッフの顔が見えていないからです。直売所の店長やスタッフは農家とは親しいかもしれませんが、他の市民や行政とはどうでしょうか? あまり知られていないかもしれません。
そこは直売所のスタッフが個人として、積極的に交流していきたいところです。
これは「個人として交流する」という点が大事で、直売所の存在を街の人たちが知っているだけでは、なかなか相談したりできないものです。人としてお付き合いしていく、ということです。
商工業の飲み会に出たり、一緒にイベントを企画したりするのもよいでしょう。そうしていけば、「地元の農家とこんなことをやりたい」「こんな商品を企画したい」という話が、向こうからおのずと持ち込まれてくるものです。
どんどん街に出ていく──“直売所プロフェッショナル”はそのことをつねに考えたいものです。

売るだけが直売所の仕事じゃない

東京都多摩市の京王永山駅の近くに、多摩市と友好都市である富士見町(長野県)との共同アンテナショップ「ポンテ」があります。富士見町の物産を売るかたわら、地元多摩市の野菜を毎日店頭で販売しています。

「ポンテ」を運営するNPO法人シーズネットワークは、店舗での野菜の販売にとどまらず、地元農業の市民への発信や、農業と商工業をつなぐ動きもしています。以下に一例をあげてみます。

【1. WEBサイト・SNSの運営】
たとえば、多摩市の農産物応援サイト「agri agri(アグリ アグリ)」を運営しています。市内で地元農産物を扱っている飲食店やレシピ、農にまつわるイベントのお知らせなどを載せ、ここを見さえすれば地元の農業が分かるというサイトを作っています。取材を円滑に行えるのは、農産物販売を通じて、地元の大半の農家さんと知り合いだからに他なりません。

【2. 商品開発】
以前から地元のブルーベリーを使ったゼリーが学校給食で提供されていましたが、それを市販化し、「学校給食からうまれたみんなのゼリー たまっ子ベリー」として発売しました。
また、多摩市には地元産のお米を使った日本酒「原峰(はらみね)のいずみ」がありますが、その酒粕は利用されていませんでした。シーズネットワークは、酒粕を蔵元から仕入れて市内の菓子店や飲食店にあっせんしています。

【3. 窓口機能】
シーズネットワークには、企業からは「設立○周年の引き出物に地元ならではのものを使いたい」、大学からは「学園祭の模擬店で地元野菜を使いたい」、あるいはPTAからは「農家さんのお話を子どもたちにしてほしいので、農家さんを紹介してほしい」といったいろいろな要望が舞い込みます。また、近隣の商業施設で、地元産の果物を活用したフェアを開催したいという話があり、ブルーベリーやいちじくをあっせんしました。このように、農業の窓口として機能しています。

シーズネットワーク代表の岡本光子(おかもと・みつこ)さんはこう言います。
「そういった声に対して、面倒がらずに対応してさしあげると、地元の野菜の応援団になってくれます。そして、どんどん周囲に宣伝してくれるんです」
街の人たちがシーズネットワークに相談を持ちかけるのは、岡本さんやスタッフが地域にしっかりと根を張っているからです。
(ちなみに、岡本さん自身、多摩市の農のある風景を気に入って引っ越してきたそうで、岡本さん自身が、農業が街に貢献した実例となっています。)

このような動きを自然にできるのは、「ポンテ」の運営団体がまちづくりをテーマとしたNPO法人だからでしょう。シーズネットワークはもともと子育てを楽しめる街をつくりたいという思いから、子育て支援や女性の社会参画支援を行ってきた団体です。そのような団体が運営しているので、もともと街にとっての直売所はどうあるべきか、という観点が初めからそこにあったのだと思います。
また、京王永山駅周辺はいわゆる「多摩ニュータウン」という大規模開発されたベッドタウンで、行政も市民も今後のまちづくりに課題を感じていたという背景もありました。
ただ、直売所の設置団体が何であれ、そしてどんな街であれ、直売所が単なる小売業に留まっている必要はありません。農業と市民と商工業の真ん中に位置する特殊な存在として、街に貢献していくということが求められているのです。

岡本さんは「ポンテ」を開業してすぐに、そのことに気づいたそうです。
「この街の農のある風景や文化を守りたいと思っていて、ご縁があってお店の運営を始めました。でも、農産物を売るだけでは農業は衰退するばかりだ、ということに気づきました。それからは農家さんができないことをいろいろな方面からサポートしよう、と思って動いています」
 
農産物を売ることは直売所の大事な仕事ですが、それだけに留まっていることはありません。ものすごく特殊な業態である直売所が、まちづくりのためにできることは山のようにあります。
やや大げさにいえば、令和時代の街の魅力は、直売所にかかっている。そう言ってもいいのではないかと思います。

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