肥料店が目をつけた「スーパーフード」
滋賀県長浜市でパパイヤ栽培が始まったのは2018年。長浜市の米穀肥料店・株式会社落庄(おちしょう)商店の代表取締役、西村博行(にしむら・ひろゆき)さんが仕掛け人だ。
パパイヤの「栄養豊富なスーパーフード」としての魅力に着目した西村さんが、まずは先陣を切って、河川敷の農場で2年間の試験栽培を始めた。そして、2020年1月には湖北地域(長浜市と米原市)の農家に呼びかけて説明会を開き、有志で栽培を大規模に開始。参加農家戸数は78軒、株数にして約1800本のパパイヤの苗が湖北地域に植えられた。
2020年10月末からは、「淡海(おうみ)パパイヤ」のブランドで販売が始まった。
「あそこでもパパイヤつくってもらっとるんです」と、西村さんが案内してくれたのは、道沿いの田んぼだった。収穫が終わったイネのひこばえが芽生える田んぼの隣には、カボチャなどのほかに、南国然としたパパイヤの木が植わっている。それにしても、南国リゾート感あふれる不思議な光景だ。
「青パパイヤ」なら雪降る湖北地域でもつくれる
青パパイヤとは?
西村さんたちがつくっているのは、フルーツとして食べる完熟した黄色いパパイヤではなく、野菜として使う未熟の青いパパイヤだ。
料理として使うのは、主に白い果肉の部分。タイ料理なら、青パパイヤが主役のサラダ「ソムタム」が有名だし、沖縄料理だと「チャンプルー」や「イリチー」といった炒め物にも使われる。ビタミンが豊富なうえ、パパイン酵素といった健康機能性に優れた酵素も持っている。西村さんが「スーパーフード」と呼ぶのはその辺りに理由がある。
青パパイヤなら、果菜類感覚でつくれる
とはいえ、南国の植物であるパパイヤが寒さに弱いのは事実で、最低気温が10度を下回ると成長が止まり、5度以下の日が続くと枯れてしまう。したがって、厳寒期には氷点下5度まで下がる湖北地域では越冬させるのは無理なうえ、どんなに早く植えても完熟パパイヤをとるには生育期間が足らない。
その一方で、パパイヤは、苗を植えてから約半年で2メートルを超えるまで育ち、たわわに実をつけるほど、果樹にしては成長速度が早い植物でもある。
つまり、ナスやトマトのような1年生の果菜類のようになら、湖北地域でも十分つくることができる、というわけだ。
意外とラクチン パパイヤ栽培の実際
5月に植えた小さな苗が、夏を越えると2メートルに
西村さんに案内してもらったのは、露地でパパイヤをつくる田中義勝(たなか・よしかつ)さん、愛子(あいこ)さん夫妻。
「パパイヤはすごい」と、義勝さん。5月の連休中に植えた30センチ足らずの苗が、たった5カ月で2メートルを超える木になり、これだけたくさんの実をつけるのだから、その実もきっととてつもない力を持っているんじゃないか、と義勝さんは実感しているという。
無農薬でも虫が来ない
パパイヤの栽培方法はまだ実験中だが、田中さんの場合はこうだ。
30センチほどの高畝にして、30本当たり30袋の発酵鶏ふんを元肥として施用。5月上旬には、落庄商店から購入した20センチほどの小さな苗を、黒マルチを張った畝に定植した。5月といえばまだ冷え込むこともあるので、肥料袋の端を切って苗の周りを囲う行灯(あんどん)などで防寒。
10月上旬にはこれだけ大きな木になるわけだが、そのあいだにやったことといえば、たびたび出るわき芽をかいて、8月には熱心に水やりをし、草刈りをするくらいで、防除も何もしなかった。それでも、葉っぱには害虫もいないし、健康的に育っているように見える。
収穫は、500グラム以上の実を収穫して、落庄商店に出荷。今年は、1キロで600円で買い取ってくれる。大きな実なら1つ1.5〜2キロある。それくらいの大きなパパイヤが、1本につき10〜15玉収穫できる見込み。
収穫自体も簡単で、はさみを使わず、実を持ってぐるんとひねれば簡単にもげる。
パパイヤ栽培は、じつはけっこうラクチンなのだ。
青パパイヤが遊休農地解消に向く理由
主な担い手は、小さな農家たち
じつは、田中さん夫妻のパパイヤ栽培は、家庭菜園の一画で行っている程度。西村さんによると、湖北のパパイヤの担い手はこのような人たちが主体だそう。
「湖北地域は穀倉地帯で、イネの晩生(おくて)種の収穫がパパイヤの収穫ともろにかぶる。専業農家の若者たちには、じゃんじゃん米をつくってもらって、地域の農地保全に活躍してもらい、田中さんのような元気な高齢者や、食養に関心のある奥さんたちが家庭菜園を楽しむような感覚で、パパイヤを売って旅行にでも行こうか、と小遣い稼ぎにやってくれればいい」と西村さん。
定植も、草刈りもラク
家庭菜園以外にも、遊休農地の解消や、田んぼの転作としてつくる人も多い。害虫がほとんど来ないうえに、管理作業もほとんどないパパイヤ。そのうえ、およそ3メートル間隔で定植していくので、単純計算すると、10アール当たり80〜90本。たとえば、ナスなら10アール約600本植えるところ、これだけの数で済むのだから、定植作業もラクだ。
水田の転作として栽培する場合には、上記の本数の苗を植えていれば、10アール当たり3万5000円の交付金も出るようにもなった。
また、株間が離れているため、草刈りもラク。トラクターにハンマーナイフモア(草刈り機)をつけて走るだけ、という人もいるそうだ。
琵琶湖のほとりで始まった、小さな農家がつくるパパイヤ産地。西村さんは、実のほかにも、葉っぱもお茶にしたり、茎を和紙の原料として使ったりできないかと、いろんな作戦を考えているところ。湖北地域の遊休農地が、パパイヤで埋まる日も近い!?